大判例

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神戸地方裁判所 平成3年(ワ)475号 判決

原告

三木純一

ほか二名

被告

龍田勝

ほか一名

主文

一  被告龍田勝は、原告に対し、金一三五〇万〇〇七九円及びこれに対する平成元年一〇月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告龍田勝に対するその余の請求及び被告加東郡農業共働組合に対する請求のすべてをいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告と被告龍田勝との間に生じたものはこれを五分し、その三を原告の、その二を同被告の各負担とし、原告と被告加東郡農業協同組合との間に生じたものはすべて原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して、金三四〇〇万及びこれに対する平成元年一〇月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成元年一〇月一四日午前八時一〇分ころ

(二) 場所 兵庫県加東郡社町松尾三八四番地先町道の交差点(以下「本件交差点」という。)内

(三) 被告車 被告龍田勝(以下「被告龍田」という。)所有・運転の軽四輪貨物自動車(神戸四〇あ二三八六)

(四) 原告車 原告乗車の自転車

(五) 態様

本件交差点は、東西道路と南北道路が交差する信号機の設置されていない交差点であるところ、被告車は、同交差点東西道路(以下「本件東西道路」という。)を西進し、同交差点内に進入した際、同交差点南北道路(以下「本件南北道路」という。)を北進してきた原告乗車にかかかる原告車と同交差点内で衝突した。

2  被告らの責任

被告らは、それぞれ、次のとおり、原告が本件事故により被つた損害を賠償する責任を負う。

(一) 被告龍田の責任

被告龍田は、本件事故当時、被告車を自己のために運行の用に供していたから、自賠法三条による責任を負う。

(二) 被告加東郡農業協同組合(以下「被告農協」という。)の責任

(1) 運行供用者責任

(イ) 被告龍田は、本件事故当時、被告農協職員であり、被告農協貝原総合センター内にある農機具センターに勤務し、後記渉外業務に従事していた。

(ロ) 被告農協では、職員の業務につき、通常被告農協所有の車両を使用させていた。

しかし、被告龍田の担当業務が、農協組合員である農家の農機具の修理、販売を主とし、新規購入の農機具の使用説明や整備の要領指導等を従とする渉外業務であつたため、同人が、これらの業務で農家を訪問するには、必然的に早朝を含む朝の時間帯や農家が作業を終える夕方の時間帯が多かつた。そのため、被告龍田は、農機具センターへの乗用自動車による出勤ないし帰宅途中に、関係農家を訪問し、農機具の修理、販売等の業務を処理していた。

(ハ) 被告農協は、被告龍田が朝夕の通勤に乗用自動車を使用し、右状況下で同人が担当する右業務処理を容認していた。

それ故、被告農協は、本件事故以前から、被告龍田が保有する通勤用の乗用自動車に対して、運行支配及び運行利益を有していたものである。

(ニ) そして、被告龍田は、本件事故当時、たまたま、日ごろ通勤用に使用していた乗用自動車を買い替えのため下取りに出す予定であつたため、これに替えて同人所有の被告車を利用していた。

しかし、被告農協としては、日ごろから前記のとおり被告龍田が朝夕の通勤途中に同人所有の乗用自動車で被告農協の業務を行うのを容認してきたのであるから、同人が本件事故当時単に通勤用の車両を取り替えていたというだけで、被告農協の被告車に対する運行支配及び運行利益が消滅するものではない。

(ホ) よつて、被告農協は、本件事故当時、被告車を自己のために運行の用に供していたから、自賠法三条所定の責任を負う。

(2) 使用者責任

仮に、被告農協の自賠法三条に基づく右責任が認められないとしても。本件事故は、前記のとおり被告龍田が被告農協の業務執行中に発生させたものであるところ、被告龍田は、本件事故直前、被告車を運転して本件交差点にさしかかつたのであるから、自車前方を注視し、かつ、同交差点内へ原告車が進入してきたのであるから、自車を減速徐行させて原告車との衝突を回避しなければならないにもかかわらず、これを怠り、漫然と前方不注視のまま減速徐行せず、ハンドル、ブレーキ操作を適切になさなかつた過失により本件事故を発生させた。

よつて、被告農協は、民法七一五条に基づいて被告龍田の使用者としての不法行為責任を負う。

3  原告の受傷内容及び治療経過並びに後遺障害の存在

(一) 原告の受傷内容

原告は、本件事故により、全身打撲、出血性シヨツク、脾臓破裂の傷害を受けた。

(二) 治療経過

原告は、小野市立小野市民病院(以下「市民病院」という。)に平成元年一〇月一四日から同年一一月九日まで入院し(二七日間)その間、本件受傷である脾臓破裂の治療として脾臓摘出手術を受け(副脾も除去)、同月一〇日から平成二年四月一六日まで通院した(実治療日数六日間)。

(三) 後遺障害の存在

原告の本件受傷は、平成二年四月一六日症状固定し(当時一三歳)、自賠責保険において、後遺障害として自賠法施行令後遺障害等級第八級一一号「脾臓又は一側の腎臓を失つたもの」に該当する旨の認定を受けた(以下「本件後遺障害」という。)。

4  原告の損害

(一) 治療費 金二六万三七八〇円

(二) 腹帯費 金一三九一円

(三) 入院雑費 金三万五一〇〇円

入院期間二七日間につき、一日当たり、金一三〇〇円の割合。

1,300(円)×27(日)=3万5,100(円)

(四) 付添看護料 金一二万一五〇〇円

入院期間二七日間につき、一日当たり、金四五〇〇円の割合。

4,500(円)×27(日)=12万1,500(円)

(五) 通院交通費 金三三六〇円

市民病院へ六日間通院するに際し、バスを利用し、一回の往復バス代は金五六〇円である。

(六) 医師謝礼 金一万円

(七) 逸失利益 金四三九一万二一四三円

原告は、本件症状固定時一三歳であり、本件後遺障害(前記のとおり後遺障害等級第八級一一号該当)により、その労働能力の四五パーセントを喪失した。

原告の本件逸失利益算定の基礎収入は、昭和六三年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計男子労働者の平均年収金四五五万一〇〇〇円によるべきである。

また、原告の就労可能年数は、満一八歳から満六七歳までの四九年間とすべきであり、これに対応する一三歳時の新ホフマン係数は二一・四四二である。

右各事実を基礎として、原告の本件後遺障害による逸失利益の現価額を、新ホフマン式計算方法により中間利息を控除して算定すると、金四三九一万二一四三円となる。

455万1,000(円)×0.45×21.442=4,391万2,143(円)

(八) 慰謝料 金七七六万円

原告の本件受傷内容、その治療経過、本件後遺障害の存在及びその程度は前記のとおりであるから、本件事故による慰謝料は、次の金額が相当である。

(1) 入通院分 金一二六万円

(2) 後遺障害分 金六五〇万円

(九) 弁護士費用 金三〇〇万円

(一〇) 右(一)ないし(九)の合計額 金五五一〇万七二七四円

5  損害の填補 金八〇〇万八一八〇円

原告は、本件事故後、訴外兵庫県共済農業協同組合連合会から自動車損害賠償責任共済金として金七七五万三二二〇円の、被告龍田から治療費として金二五万四九六〇円の各支払いを受けた。

したがつて、既払額合計は、金八〇〇万八一八〇円となり、これを前記損害の合計額から差し引くと、原告の本件損害額は、金四七〇九万九〇九四円となる。

6  よつて、原告は、被告らに対し、連帯して、本件損害賠償として、本件損害額の内金三四〇〇万円及びこれに対する本件事故発生の日である平成元年一〇月一四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁

(被告龍田)

1 請求原因1(本件事故の発生)の事実は認める。

2 同2(被告ら責任)のうち、被告龍田が本件事故当時被告車の運行供用者であつたことは認め、同被告が自賠法三条による損害賠償責任を負うとの主張は争う。

3 同3(原告の受傷内容及び治療経過並びに後遺障害の存在)のうち、(一)の事実は不知、(二)、(三)の各事実は争う。

4 同4(原告の損害)は争う。

なお、(七)については、仮に、原告が脾臓摘出により自賠責保険上後遺障害等級第八級一一号に該当する旨の認定を受けたとしても、同人がその生涯にわたつて四五パーセントもの労働能力を失うことはない。

5 同5(損害の填補)のうち、原告が合計金八〇〇万八一八〇円の支払いを受けたことは認める。

(被告農協)

1 請求原因1(本件事故の発生)の事実は認める。

2(一) 同2(被告らの責任)のうち、被告農協が被告龍田の使用者であること、被告龍田が、勤務先である農機具センターへの出勤について、同人所有の乗用自動車で出勤し、出勤あるいは帰宅途中に農機具の修理等の業務を行うことがあり、本件事故当日、それまで通勤に利用していた乗用自動車を買い替えのために下取りに出す予定であり、これに替えて同人所有の被告車を使用したことは認め、その余の事実及び主張は争う。

(二) 被告龍田は、前記勤務先への出勤あるいは帰宅途中に農機具の修理等の担当業務を行うことはあつたが、これは、ごく例外的な場合で、その頻度は年に数回というわずかな回数である。また、本件事故は同人の勤務中のものではなく、かつ、被告車は、被告龍田が日頃自己の通勤に使用していたものでなく、通勤車に使用していた乗用自動車を下取りに出すため、たまたま本件事故当日に限つて被告車を使用したものである。このような事実関係においては、被告農協は、いかなる意味においても、被告車について運行供用者責任を負うことはない。

(三) また、後記(抗弁1)のとおり被告龍田には本件事故発生に対する過失がなく、しかも、同事故は同人の勤務中に発生したものではないから、民法七一五条所定の「事業ノ執行ニ付キ」に該当しない。

よつて、被告農協が右法条に基づく責任を負うこともない。

3 同3(原告の受傷内容及び治療経過並びに後遺障害の存在)のうち、(一)の事実は不知、(二)、(三)の各事実は争う。

4 同4(原告の損害)は争う。

なお、(七)については、脾臓の摘出は自賠責保険上一応第八級に該当するとされているが、その将来の労働力への影響等は不明であり、原告は、現在では体育を含めて通常の高校生活を支障なく過ごしていることに鑑みて、労働能力喪失率は二五パーセント程度以下とすべきである。

5 同5(損害の填補)は不知。

三  被告龍田の抗弁

1  免責(自賠法三条但書関係)

(一)(1) 被告龍田は、本件事故直前、被告車を時速約四〇キロメートルの速度で運転し、本件東西道路を西進中、本件交差点手前東方約三〇メートルの地点付近に至つた際、自車前方に、本件南北道路を北進してきた原告車が、同交差点の横断を完了したのを認め、自車の速度を時速三〇ないし三五キロ程度に減速して原告車の後方を通過しようと直進を続けた。

ところが、被告龍田は、原告車が被告車の前方を一旦通過したのに同交差点内でUターンして再び被告車の進路上に飛び込んでくるのを、約一〇・七メートルに接近して認め、急ブレーキを踏んだが間に合わず、本件事故が発生した。

(2) 右事実関係から明らかなとおり、本件事故は、原告車の右異常な行動により発生したものであり、被告龍田には、本件交差点内の横断を完了した原告車が同交差点でUターンして被告車の前方へ飛び込んでくることまで予測して同車両を運転すべき注意義務はない。

よつて、被告龍田には、本件事故発生に対する過失がない。

(二) 被告車には、本件事故当時、構造上の欠陥も機能上の障害もなかつた。

2  過失相殺

仮に、前記免責の抗弁が認められないとしても、被告車の進行した本件東西道路は本件交差点内にもセンターラインの表示のある優先道路であつたにもかかわらず、原告は、右方の安全確認を全く怠り、原告車をかなりのスピード(時速三〇キロ程度)のままで同交差点内に進入させ、かつ、同人は、一旦同交差点の横断を完了したにもかかわらず、突然原告車をUターンさせ被告車前方に飛び込むというような無謀な行動を採つた結果、本件事故を惹起した。

したがつて、本件事故の発生には、原告の右過失も寄与しており、同人の同過失は、同人の本件損害額の算定に当たつてこれを相当程度斟酌し、大幅な過失相殺がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、被告車が本件事故直前本件東西道路を西進して本件交差点に至つたこと、原告車が同事故直前本件南北道路を北進して同交差点に至つたこと、被告車と原告車が同交差点内で衝突し、同事故が発生したことは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。

本件南北道路は、南から北に緩やかな下り坂となつているところ、原告は、本件事故直前、原告車に乗つて同南北道路を北進し、原告車の足踏みペダルを普通の踏み方で踏み、ブレーキを緩く握つて同車に少しブレーキをかけながら本件交差点内に入りかかつた。

しかして、同人は、その際、自車右方(東方)に進来する被告車を発見し、恐怖を感じてこれを避けようとしたが、自車のバランスを崩してよろめき、左方にハンドルを取られたところへ被告車が突つ込んで来て、本件事故が発生した。本件事故発生までの経緯は右のとおりであつて、原告車が被告龍田において主張するようにUターンした事実はない。

2  抗弁2(過失相殺)のうち、被告車が進行した本件東西道路には同交差点内にもセンターラインの表示があることは認め、その余の事実は否認し、その主張は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件事故の発生

請求原因1(本件事故の発生)の事実は、当事者間に争いがない。

二  同2(被告らの責任について)

1  被告龍田関係

(一)  被告龍田が被告車の運行供用者であることは、原告と被告龍田との間(以下単に「当事者間」という。)においては争いがない。

(二)  そこで、被告龍田の抗弁1(自賠法三条但書による免責)について判断する。

(1) 抗弁事実中被告車が本件事故直前本件東西道路を西進して本件交差点に至つたこと、原告車が同事故直前本件南北道路を北進して同交差点に至つたこと、被告車と原告車が同交差点内で衝突し、同事故が発生したことは、当事者間に争いがない。

(2) ところで、被告龍田は、本件事故は、原告車が本件交差点内の横断を終えたにもかかわらず、同交差点内でUターンして再び被告車の進路上に飛び込んでくるという異常な行為を採つたことによつて発生したのであり、同被告には過失はない旨主張する。

(イ) しかして、被告龍田の右主張事実にそう証拠として、原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証(本件事故現場見取図)中における被告龍田の指示説明部分、証人佐藤昌彦及び被告龍田本人の各供述部分があるが、これらは、後掲各証拠及びそれに基づく後記認定事実に照らして、にわかに信用することができず、他に右主張事実、特に原告車が本件交差点内でUターンしたとの事実を肯認するに足りる的確な証拠はない。

なお、右甲第二号証は、同文書が原告の立会なくして作成されたものであることが同文書自体から明らかである故、同文書中の他の記載部分はともかく、被告龍田の指示説明部分は、にわかに信用することができない。

もつとも、前掲甲第二号証中の写真、撮影年月日、撮影対象及び撮影者に争いのない検乙第一号証の一ないし一七からは、被告車運転席前部フロントガラス右側(左右は、当該車両の運転席に着座した姿勢を基準とする。以下同じ。)の破損部分及び同車両のフロントバンパー右側部分の浅い凹損の各存在、原告車の左ペダルの屈曲状況(同ペダルがサイドポークに接着)が、それぞれ認められる。

しかしながら、これらの各損傷状況は、本件事故の際の様々な衝突態様によつて生ずる可能性があり、同破損状況だけから直ちに、同破損状況が他の可能性を排し被告龍田の前記主張事実だけにそつて発生したものであると断定することはできない。

したがつて、右認定の各破損状況から被告龍田の右主張事実を肯認するためには、右認定の各破損状況と合まつてこれを肯認するに足りる他の証拠を必要とするところ、本件においては、右説示にかかる証拠は、証人佐藤昌彦、被告龍田本人の前記各供述部分以外になく、同人らの同各供述部分がにわかに信用できないことは、前記のとおりである。

結局、前掲甲第二号証、同検乙第一号証の一ないし一七それ自体によつても、被告龍田の右主張事実を証明するに至らないというべきである。

(ロ) かえつて、前掲甲第二号証、成立に争いのない甲第一号証、甲第三号証の一、二、第一三、第一四号証、撮影年月日、撮影対象及び撮影者に争いのない検甲第一ないし第八号証、撮影対象に争いがなく、弁論の全趣旨により平成二年一一月一三日ころ栗山一雄により撮影されたものと認められる検甲第九ないし第一三号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一、第二号証、証人佐藤昌彦の証言、原告本人、被告龍田本人の各尋問の結果(ただし、前掲甲第二号証の記載及び証人佐藤、被告龍田の各供述中、いずれも前記信用しない各部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められる。

(a) 本件交差点は、本件東西道路と本件南北道路がほぼ直角に交差する、信号機による交通整理が行われていない交差点であるところ、本件東西道路(車道はセンターラインによつて二車線に区分され、両車線の幅員各三メートル。同車道の南北に幅員一・五五メートルの各路側帯が設置され、同北側路側帯の北側に幅員三・五メートルの歩道が、同南側路側帯の南側に歩道予定地が存在した。ただし、本件事故当時の状況。以下同じ。)には、同交差点内にもセンターラインが引かれているほか、他に道路標識はなかつた(したがつて、本件東西道路は、本件南北道路に対して優先道路である。)。

なお、本件交差点付近の最高速度は、時速六〇キロメートルである。

(b) 本件南北道路(車道歩道の区別なく、本件交差点南側入口付近の幅員五・二メートル。同交差点北側入口付近の幅員七・一メートル。)は、南方から本件交差点に向かつて緩やかな下り坂であり、社町立中学校の通学路に指定され原告を含む同中学校生徒が通学に利用していた。一方、本件東西道路も東方から西方への下り坂であり、被告龍田は、日頃から通勤路として利用しており、同人は、休日以外の日の午前八時過ぎには通学生徒らが同南北道路を通学路として利用していることを知悉していた。

(c) 本件南北道路も同東西道路(いずれも、アスフアルト舗装路。)も前記のとおりの下り坂であるため、本件交差点の南東角にある田には同両道路に面してそれぞれやや高くなつた土手が存在し、その結果、本件東西道路を東方から西方へ進行する車両の運転者にとつては、同交差点付近において、同土手のため、自車左前方に存在する本件南北道路を南方から北方へ進行する自転車の動向を確認しにくくなり、自転車乗者の上部が見える程度であり、同自転車の走行場所によつては土手に隠れて見えにくくなるところもある。

一方、本件南北道路を南方から北方へ進行する自転車乗者にとつても、前記地形から、本件交差点付近において、自車右前方に存在する本件東西道路を東方から西方へ進行する車両の動向を確認しにくく、特に、原告は、体格的にも小さく、少年向けのスポーツ型自転車(原告車)に乗つていたから、同人の同場所付近での同方向への見通しは、同進行車両の屋根が確認できるかできないかの程度のものであつた。

なお、本件東西道路も同南北道路も、右見通し以外の見通し、すなわち、東西へまたは南北への直線状見通しは、いずれも良好である。

(d) 原告は、本件事故当日午前七時四五分ころ、前記中学校に通学するため、一人で原告車に乗り家を出て、その後本件南北道路を同車で北進していた。同人は、途中、社町東実付近で同中学校三年生の自転車に乗つた吉田に会い、そのころ後方から自転車に乗つてやつて来た同中学校一年生の佐藤昌彦に出会つた。そして、吉田と佐藤は、並んで原告を負い抜いて行き、原告は、同人らのあとを約一〇メートルくらい遅れて追いて行つた。

(e) 被告龍田は、前同日午前八時五分ころ自宅を出て、通勤のため被告車を運転して本件東西道路南側車線内センターライン寄り付近を時速約四〇キロメートルの速度で東方から西方へ進行した。そして、同人は、本件交差点の東方約三二・八メートルの地点付近に至つたとき、自車前方の同交差点内を自転車が数台横切るのを認め、自転車で生徒が登校していると思い自車の速度を若干減速したが、更に自転車に乗つた生徒が後続して同交差点内に進入して来るとは思わなかつた。

(f) 一方、吉田と佐藤は、前傾姿勢を採り、自転車としては速い速度で進行させ、並んで本件交差点内に進入した。

原告は、同人らに遅れて原告車のブレーキを緩く握つて本件南北道路の西寄りをやや速い速度で進行し、同交差点内に進入しようとしたが、同交差点南側入口の前記南側歩道予定地南端付近に至つて初めて、自車右方から同交差点内に向け進来する被告車を発見した。

同人は、被告車を発見して驚き、坂を下りて来たときよりもやや強く原告車のブレーキを握り、そのハンドルを左に切つたが、下り坂で同車に勢いがついていたためにふらつき、同交差点内のセンターライン付近まで斜めに進行すると同時に、同車のバランスを崩し、人車ともども南側に傾いた。

(g) 被告龍田は、本件交差点東側入口手前付近において、自車の進路前方で原告車がふらつくのを発見し、危険を感じてとつさに急ブレーキをかけたが、間に合わず、同交差点南西角から約七・一メートル北方の本件東西道路南側車線上において、前記のとおりバランスを崩して南側に傾いた原告車の左側面に被告車の右前部を衝突させ、本件事故を発生させた。

(ハ) 右認定各事実に照らしても、被告龍田の前記主張事実は、これを肯認するに至らない。

むしろ、右認定各事実、特に、被告龍田が、本件事故以前に、本件南北道路が通学路であり休日以外の日の午前八時過ぎには通学生徒らが同道路を通学路として利用していることを知悉していたこと、本件交差点付近の地形、被告車の本件事故直前における進行路から原告車進行路方面への見通し等を総合すると、本件事故の発生には、少くとも被告龍田の前方不注視の過失も寄与していると認めるのが相当である。

(3) 右認定説示に基づくと、被告龍田の本件事故発生に対する無過失は肯認し得ず、むしろ、同人に少くとも前方不注視の過失の存在が肯認される故、同被告の前記免責の抗弁は、その余の主張事実につき判断するまでもなく、理由がなく採用できない。

2  被告農協関係

(一)  原告の主張事実(請求原因2(二))中被告農協が被告龍田の使用者であること、被告龍田が、勤務先である農機具センターへの出勤について、同人所有の乗用自動車で出勤し、出勤あるいは帰宅途中に農機具の修理等の業務を行うことがあり、本件事故当日、それまで通勤に利用していた乗用自動車を買い替えのために下取りに出す予定であり、これに替えて同人所有の被告車を使用したことは、原告と被告農協間(以下単に「当事者間」という。)で争いがない。

(二)(1)  被告農協の運行供用者責任(自賠法三条所定)の存否

(イ) 原告は、被告農協が本件事故当時被告車に対し運行支配及び運行利益を有していた旨主張するが、同主張事実については、当事者間に争いのない前記事実以外に、これと合まつて同主張事実を肯認させるに足りる証拠はない。

成立に争いのない甲第一七号証の一ないし一一は、被告龍田の勤務先である被告農協貝原総合センターにおける車両配置と管理責任図及び自動車点検報告書であるが、同各文書の記載内容から、被告龍田の勤務先に配備された業務用車両の勤務時間内における使用状況(走行距離)は明らかになるものの、原告の右主張事実は、これを認めることができない。

(ロ)(a) かえつて、被告龍田本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。

(Ⅰ) 被告龍田の勤務時間は、午前八時半から午後五時までであり、同人は、前記業務用車両を使用して農機具の修理に農家に行つたり、同所で修理できない場合は農機具センターまで農機具を持ち帰つたり、あるいは農機具販売のため営業用のパンフレツトや書類を農家に持つて行つたりするなど農機具の修理・整備、販売等を担当していた。

(Ⅱ) そして、同人は、勤務時間外に農家から同人宅に電話で、農機具の調子が悪いから通勤の途中でその点検に来て欲しいとか、夕方に来て欲しいとかの依頼を受けることがあつた。同人は、その場合、農機具センターに出勤する前に直接農家に行つたり、同センターからの帰宅途中に農家に立ち寄つたりしていたが、同人は、同業務処理の都度、その旨を所属課長に告げ、同課長の了解を得ていた。ただ、右業務処理の回数は、年に数回程度であつた。

(Ⅲ) 被告龍田は、本件事故当日、農家から右のような依頼を受けておらず、それまで通勤に使用していた乗用自動車を買い替えたため、新車が納品される日であつたことから、同車を下取りに出すために家に置き、同日午前八時五分ころ、それまで通勤に使用したことのない被告車(軽四貨物車)に乗車して家を出て通勤の途に就いた。

(b) 右認定各事実に照らしても、原告の前記主張事実は、これを肯認できない。

むしろ、右認定各事実を総合すると、被告農協は、被告車に対し運行支配及び運行利益を有していなかつたと認めるのが相当である。

なお、本件において、原告の前記主張事実以外に、被告農協が被告龍田において通勤に使用していた乗用自動車に関し、修理費等の管理維持費、ガソリン代金等を負担していた等の事実につき、その主張・立証はない。

(ハ) 右認定説示に基づくと、被告農協には、自賠法三条所定の運行供用者責任を問い得ないというべきである。

(2)  被告農協の使用者責任(民法七一五条所定)の存否

(イ) 原告は、被告農協に対し、本件事故につき民法七一五条所定の使用者責任の存在を主張するところ、同主張が肯認されるためには、被用者の当該行為が同法条所定の「事業の執行に付き」行われたとの要件を充足する必要がある。

しかして、右要件充足の有無の判定は、事業の執行行為自体及びその事業の執行を助長するためこれと適当な牽連関係に立ち使用者の拡張された活動範囲内の行為と認め得る行為のほか、被用者の意図如何にかかわらず行為の外形上使用者の事業の執行と認められる行為をも含む、との基準によつて決定するのが相当である。

しかるに、本件においては、被告龍田の本件事故当時における被告車の運転が右説示の基準に則り被告農協の事業の執行につき行われたとの事実を認め得るに足りる証拠はない。

(ロ) かえつて、被告龍田の本件事故当時における被告車の運転事情、それと被告農協の業務執行との関係は、前記認定各事実のとおりであり、右認定各事実に照らしても、被告龍田の本件事故当時における被告車の運転が前記法条の前記要件を充足しているとは、認め得ない。

むしろ、右認定各事実を総合すると、被告龍田の本件事故当時における被告車の運転は、被告農協の事業執行とは、無関係であつたと認めるのが相当である。

(ハ) よつて、原告の、被告農協に対する使用者責任の主張は、その余の主張につき判断を加えるまでもなく、前記法条所定の前記要件充足の点で、既に理由がない。

(三)  右認定説示から、結局、原告の被告農協に対する本件責任原因の主張は、いずれもこれらを肯認し得ず、したがつて、原告の被告農協に対する本訴請求は、その余の主張について判断するまでもなく、同責任原因の存在の点で、既に理由なしというほかはない。

三  請求原因3(原告の受傷内容及び治療経過並びに後遺障害の存在)について

1  成立に争いのない甲第四ないし第七号証、原告本人尋問の結果を総合すると、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。

(一)  原告の本件受傷内容

原告は、本件事故により、全身打撲、出血性シヨツク、外傷性脾破裂の傷害を受けた。

(二)  治療経緯

原告は、本件受傷治療のため、市民病院に、平成元年一〇月一四日から同年一一月九日まで入院し(二七日間)、同月一〇日から平成二年四月六日まで通院した(実通院日数六日間)。

なお、原告は、右病院における右入院中脾臓摘出手術を受けた。

(三)  本件後遺障害の存在

前掲甲第四ないし第七号証、成立に争いのない甲第一二号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告の本件受傷は、平成二年四月一六日、症状固定(副脾欠如)し(当時一三歳)、後遺障害として脾摘後症候群の可能性を残し、自賠責保険において自賠法施行令後遺障害等級第八級一一号の「脾臓又は一側の腎臓を失つたもの」に該当する旨の認定を受けたことが認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。

したがつて、原告の本件後遺障害は、後遺障害等級第八級一一号に該当すると認めるのが相当である。

四  同4(原告の損害)について

1  治療費等 金二六万三七八〇円

前掲甲第七号証、成立に争いのない甲第八号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告が本件治療費及び文書料等として合計金二六万三七八〇円を負担したことが認められ、その認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実に基づき、右金二六万三七八〇円は、本件事故と相当因果関係に立つ損害(以下、「本件損害」という。)と認める。

2  腹帯費 金一三九一円

成立に争いのない甲第一一号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件受傷治療のため腹帯の着用を必要とし、その購入のために金一三九一円の支出をしたことが認められ、その認定を覆すに足りる証拠はない。

よつて、右金一三九一円も、本件損害と認める。

3  入院雑費 金三万二四〇〇円

(一)  原告が、市民病院に二七日間入院したことは、前記認定のとおりである。

(二)  そこで、本件損害としての入院雑費は、入院期間二七日につき、一日当たり金一二〇〇円の割合による合計金三万二四〇〇円と認める。

1,200(円)×27日=3万2,400(円)

4  付添看護料 金一二万一五〇〇円

(一)  原告の本件受傷内容及びその治療経過は、前記認定のとおりである。

(二)  前掲甲第四号ないし第七号証、成立に争いのない甲第一〇号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告が市民病院に入院していた二七日間は、同人の年齢及びその治療経過に照らし付添看護を不可欠とする状態にあり、右期間について母幸子が原告に付き添つて看護に当たつたことが認められ、その認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  右認定事実を総合すると、原告に対する右期間内の近親者付添看護料も、本件損害と認めるのが相当である

しかして、本件損害としての右付添看護料は、一日当たり金四五〇〇円の割合と認めるのが相当であるから、右二七日間の合計額は、金一二万一五〇〇円となる。

4,500(円)×27(日)=12万1,500(円)

5  通院交通費 金三三六〇円

(一)  原告が市民病院に本件受傷治療のために実治療日数六日間通院したことは、前記認定のとおりである。

(二)  右認定事実に成立に争いのない甲第九号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、右通院のため自宅近くのバス停「南坊」から市民病院の近くのバス停「本町一丁目」間を神姫バスで合計六回往復し、一回の往復代金は金五六〇円であつたことが認められ、その認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定各事実に基づくと、右通院交通費も本件損害と認められるところ、その合計は、金三三六〇円となる。

560(円)×6(日)=3,360(円)

6  医師謝礼 金一万円

弁論の全趣旨によれば、原告は担当医師に謝礼として金一万円を支払つたことが認められ、その認定を覆すに足りる証拠はない。

しかして、前記認定の原告の受傷内容及び治療経過に照らせば、右認定金額程度の謝礼は本件損害と認めるのが相当である。

7  本件後遺障害による逸失利益 金二五九一万四六六八円

(一)  原告の本件後遺障害が後遺障害等級第八級一一号に該当することは、前記認定のとおりである。

(二)  前掲甲第七号証、成立に争いのない甲第一九ないし第二一号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められ、その認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 脾臓には、赤血球の生成、破壊、免疫作用、貯血等の機能があり、脾臓が摘出された場合には、これらの身体機能の低下が生じるし、また、脾臓損傷の場合においては、近年、脾摘後重症感染症を配慮して脾温存手術が試みられるようになつている。

(2) 原告は、本件症状固定時、担当医師から、脾摘後症候群の可能性がある旨診断されているのに加え、風邪をひきやすいので気をつけること、運動は疲れるようであれば休むことなどの注意を受けている。

(3) そして、原告は、現在、高校二年生であり、病院に通院しておらず、体育の授業を含めて授業を欠席することはないが、運動部に入つていないうえ、睡眠時間を十分に取つていながら、毎日が疲れやすく、学校から帰ると身体がだるくなり眠くなつて寝てしまうほか、朝にはいつも腹痛を訴えている。

(三)  右認定各事実を総合すると、原告は、就労可能となる満一八歳に達した後においても、本件後遺障害としての前記症状が継続し、それにより同人の選択する職業の種類、条件等が制約されるものと推認することができ、これにいわゆる労働能力喪失表を参酌して考えると、同人は、満一八歳から六九歳までの四九年間にわたつて、その労働能力を四〇パーセント喪失することになると認めるのが相当である。

なお、被告龍田は、脾臓の摘出については、その将来の労働能力への影響は不明であること、原告は現在では体育を含め通常の高校生活を送つていることから、原告の労働能力喪失率は二五パーセント程度以下であると主張している。

確に、原告が現在高校二年生であり病院に通院しておらず体育の授業を含め授業を欠席することがないことは、前記認定のとおりである。

しかしながら、原告の現在における、右認定事実以外の生活状況についても、前記認定のとおりであり、一方、いわゆる労働能力喪失表は全てのケースにそのまま妥当するものではないけれども、交通事故による傷害のため労働能力の喪失・減退を来たしたことを理由として逸失利益を算定するに当たつて、同労働能力喪失率表が有力な資料となることは否定できない(最高裁昭和四二年一一月一〇日第二小法廷判決民集第二一巻第九号二三五二頁参照。)故、前記認定各事実とこの説示とを合せ考えると、他に被告龍田の前記主張を肯認させる具体的事実の主張・立証がなされていない以上、原告の労働能力喪失率を四〇パーセントとする前記認定説示を正当として是認すべきである。

よつて、被告龍田の右主張は、理由がなく、採用できない。

(四)  しかして、同人の本件逸失利益算定の基礎収入は、昭和六三年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者の全年齢平均給与額年額金四五五万一〇〇〇円(ただし、原告自身の主張にしたがう。)と推認するのが相当である。

(五)  右認定説示を基礎として、原告の本件後遺障害による逸失利益の現価額を、ライプニツツ式計算方法により中間利息を控除して算定すると、金二五九一万四六六八円となる〔ライプニツツ係数は一四・二三五七(一八・五六五一-四・三二九四)。円未満四捨五入。以下同じ。〕。

455万1,000(円)×0.40×14.2357≒2,591万4,668(円)

8  慰謝料 金七五〇万円

前記認定にかかる原告の本件受傷内容及びその治療経過、本件後遺障害の内容・程度及び原告の年齢のほか、本件に現れた一切の諸事情を総合すれば、本件事故による慰謝料は、入通院慰謝料として金一〇〇〇万円、後遺障害による慰謝料として金六五〇万円をもつて相当と認める。

9  原告の本件損害の合計額 金三三八四万七〇九九円

五  抗弁2(過失相殺)

1  本件東西道路には本件交差点内にもセンターラインの表示があることは、原告と被告龍田間で争いがなく、同交差点付近における東西道路と南北道路の地理的状況、両道路相互間の見通し関係、交通規制関係、被告車及び原告車の本件事故発生までの各動向及び被告龍田の本件過失の内容と程度等は、いずれも前記認定説示のとおりである。

2  そして、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、その認定を覆すに足りる証拠はない。

原告は、本件事故直前、前記認定のとおりの動向で、本件交差点南側入口付近に至り同交差点内を直進通過しようとしたが、その際、自車の速度を特段減ずることも、また、本件東西道路(前記認定の優先道路)から同交差点内に進入して来る車両の有無を確かめることもなく、漫然と自車を同交差点内に進入させたため、同東西道路東方から同交差点内に進入して来た被告車の発見が遅れ、同車と同交差点内の前記場所で衝突し、本件交通事故が発生した。

3  右認定各事実を総合すると、本件事故の発生については、原告の過失、すなわち、同人には、原告車に乗車して、本件南北道路から本件交差点内に進入するに当たり、徐行したうえ、本件東西道路を西進して同交差点内ら進入する車両の有無及び同交差点の安全を確認し、かつ、優先道路を進行する被告車の進行妨害をしてはならないという注意義務(道路交通法三六条二項所定)があつたところ、同人は、これを怠り、徐行せず、しかも、右説示にかかる安全の確認をしないまま同交差点内に進入したという過失が寄与しているといわざるを得ない。

よつて、原告の右過失は、同人の本件損害額を算定するに当たり斟酌するのが相当である。

そして、右斟酌する原告の過失割合は、前記認定の本件全事実関係に基づくと、全体に対し四〇パーセントと認めるのが相当である。

4  そこで、原告の前記認定にかかる本件損害合計額金三三八四万七〇九九円を、右過失割合によつて減額すると、原告が被告龍田に対して請求し得る本件損害額は、金二〇三〇万八二五九円となる。

3,384万7,099(円)×0.60≒2,030万8,259(円)

六  損害の填補 金八〇〇万八一八〇円

原告が、本件事故後、同人の本件損害について、その填補として金八〇〇万八一八〇円の支払を受けたことは、原告と被告龍田との間において争いがない。

そこで、右受領金員を前記認定の本件損害金二〇三万八二五九円から控除すると、原告が被告龍田に対し請求し得る損害額は、金一二三〇万〇〇七九円となる。

七  弁護士費用 金一二〇万円

本件事案の難易度、本件訴訟の審理経過及び前記認容額等を総合すると、本件損害としての弁護士費用は、金一二〇万円と認めるのが相当である。

八  結論

以上の次第で、原告は、被告龍田に対し、本件損害合計金一三五〇万〇〇七九円及びこれに対する本件事故発生の日であることが当事者間に争いのない平成元年一〇月一四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを請求し得る権利を有するというべきである。

よつて、原告の本訴請求中、被告龍田に対する請求は、右認定の限度で理由があるから、その範囲内でこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、また、被告農協に対する請求は、すべて理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鳥飼英助 安浪亮介 武田義徳)

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